甲状腺の病気は、女性のおよそ20人に1人はいると言われています。イライラや不眠、無気力・易疲労性などの症状が現れる場合があります。こうした甲状腺疾患について、甲状腺専門医である高井内科クリニック(大船)の副院長 菊地先生にうかがいました。
副院長 菊地 泰介
2012年7月14日
<甲状腺の病気>
甲状腺は、首の真ん中よりやや下(のどぼとけのすぐ下)、気管の前面に付着する蝶が羽を広げたような形をしたものです。正常な甲状腺は、外からほとんど分からないくらいの大きさ・厚さをしています。この甲状腺の疾患では女性の発病は男性の10倍ぐらいで、特に20~40歳代に多く、この年代の女性の20人に1人は甲状腺疾患があるとも言われております。
甲状腺疾患は、具体的には「バセドウ病」や「橋本病(脚注1)」などの病名で診断されます。
前述したように、甲状腺疾患は決して珍しい病気ではないのですが、なんとなく体がダルい、微熱が続く、やる気が起きない・・・などなど、症状が曖昧で多様なことが多いため、「うつ病」「認知症」「自律神経失調症」「更年期障害」などの精神疾患と間違えられたり、病気であることさえ気付かない方もいるほどです。健康診断などの検査でも、必ずしもチェックされるわけではありません。その結果、不調を感じながらもきちんと診断されずに悩んでいる方が少なくないようです。ですので、不調を改善し、健康な人と同じように毎日快適な生活が送れるようになるには、まずは早期に適切な診断を受けることが何よりも大事になります。
例えば、橋本病患者の80〜90%は、診断時では甲状腺機能は正常で、すぐには治療の必要ありません。しかし、10年以内に20%ほどの方が甲状腺機能低下を示し、治療が必要な状態になりますので、定期的なチェックが必要です。
甲状腺の検査は、主に機能と形態との異常をセットでチェックをするのですが、当院では、機能に対しては採血で、形態に対しては甲状腺エコーで検査を行っています。適切な検査を行えば、見つけられる病気ですので、悩んでいるより検査を受けることをお勧めします。
<出産と甲状腺機能異常>
出産と甲状腺機能は密接に関係しており、出産後の女性は約20人に1人という高い頻度で甲状腺の機能異常が現れます。産後1〜3ヵ月頃から、甲状腺が腫大し、甲状腺ホルモンの過剰あるいは不足が生じます。
その主な原因の一つは橋本病です。橋本病は、自己免疫反応による慢性甲状腺炎です。妊娠しますと、異物である胎児が排除されることがないように、母体の免疫反応は抑制されます。そのため、妊娠中は、橋本病の自己免疫反応も抑えられ、甲状腺の炎症も落ち着きます。
一方、産後は、その免疫バランスが変化し、甲状腺ホルモン過剰状態になる「無痛性甲状腺炎」になることがあります。暑がり・発汗過多・体重減少・食欲亢進・いらいら・不眠・振戦・頻脈・動悸などの症状がそれです。この甲状腺ホルモン過剰は一過性のもので、その後、数ヶ月後を経て、自然に甲状腺ホルモンは減り、さらには不足に陥ります。すると、過剰の時とは逆に、無気力・易疲労性・寒がり・皮膚乾燥・脱毛・むくみ・嗄声・便秘などの症状が現れます。
この他にも、妊娠中には抑えられていた自己免疫反応が、産後に活発になり、甲状腺機能低下の橋本病となり、治療が必要な状態になっていることもあります。
出産後は、育児の疲労などが重なり健康な人にも種々の症状が見られやすい時期ですので、甲状腺疾患による不調であっても、'産後の肥立ちが悪い'とか'育児ノイローゼ'などと誤解されてしまう場合が少なくありません。必要な対応を見逃さないためにも、産後に体調不良がある場合には、甲状腺機能検査を受けることが望ましいと考えます。