① 2012/12/31の夕刻、共同通信が次のようなよくわからない記事を流した。
「2012/12/31 16:26 【共同通信】
米、原発事故に核特殊チーム派遣 初展開、菅政権把握せず
東電福島第1原発事故直後に、原発周辺の放射線量を測定するために米政府が日本に派遣したのは、核テロなどに備える特殊専門チームだったことが31日、分かった。このチームが海外へ本格展開した初の事例だったが、当時の菅直人政権中枢は派遣の事実を当初把握していなかったことも判明。チームが実測したデータの公表が遅れ、住民の「無用な被ばくを招いた」(福島県浪江町議会の吉田数博議長)恐れがある。
チーム派遣決定に関わった複数の米政府関係者と、日本側当局者らが共同通信に明らかにした。派遣されたのは、上空からガンマ線を実測し汚染状況を分析する「被害管理対応チーム」の33人」
② この記事は、菅政権の手落ちをまた指摘するもののように見えるが、実はポイントは、米軍ないしは米国側が放射性物質の飛散に関する情報を自らの測定で得たのは、3/13より遅いことを明確にするという点にある。
同じ共同の英文記事は長いもので、その中に「チームを派遣する意思決定に関与する米国のニュース源は、危機が始まった3日後の2011年3月14日に、ホワイトハウスの国家安全保障会議は、米軍の要請で福島県にCMRT(the Consequence Management Response Team)を派遣することを決めたと述べた」とあり、「The CMRT conducted the first round of AMS operations from March 17 to 19, using two U.S. military aircraft.」と書かれているから、データが得られたのは、早くて3/17だ。
③ この測定結果については、日本のマスコミで既に報じられている。
2012年6月18日5時0分朝日新聞
東京電力福島第一原子力発電所の事故直後の昨年3月17~19日、米エネルギー省が米軍機で空から放射線測定(モニタリング)を行って詳細な「汚染地図」を提供したのに、日本政府はこのデータを公表せず、住民の避難に活用していなかったことがわかった。放射性物質が大量に放出される中、北西方向に帯状に広がる高濃度地域が一目でわかるデータが死蔵され、大勢の住民が汚染地域を避難先や避難経路に選んだ。
(この図は無断複製転載禁止とされている。ここでは、記事の内容理解に必要な最小限の範囲で縮小複製している)
④ 冒頭の共同の記事がこのタイミングで流れた背景には、ロナルドレーガンの乗組員米兵の被曝による東電に対する損害賠償請求訴訟に関して、。
⑤ ロナルド・レーガンに関する当初の報道など
産経新聞 2011.3.11 23:00
政府高官によると、米国側から米韓合同演習「フォール・イーグル」に参加している米原子力空母「ロナルド・レーガン」を一両日中に三陸沖に向かわせるとの連絡があった。救助を行う自衛隊のヘリコプターが被災者を収容したり、給油したりするのための拠点とする。
米国大使館のプレスリリース2011/3/20
東日本大地震と津波被災に関する米国政府の対応
2011年3月20日 原子力空母ロナルド・レーガンは仙台の北東沖で救助活動中。
⑥ ロナルドレーガンの乗組員米兵の被曝による東電に対する損害賠償請求訴訟
2012年12月、トモダチ作戦に従事した空母「ロナルド・レーガン」の乗組員8名が、福島第一原子力発電所事故に関する正確な情報を得られずに被曝したとして、東京電力に総額1億1000万ドル(約94億円)の損害賠償などを求める訴訟を米連邦地裁に起こしたと報じられた。
⑦ 乗組員の被曝問題は、早くから報じられていた。
2011/3/13のニューヨークタイムズは、「Military Crew Said to Be Exposed to Radiation, but Officials Call Risk in U.S. Slight」との見出しの記事を載せている。
次はその中の一節
The Pentagon was expected to announce that the aircraft carrier Ronald Reagan, which is sailing in the Pacific, passed through a radioactive cloud from stricken nuclear reactors in Japan, causing crew members on deck to receive a month’s worth of radiation in about an hour, government officials said Sunday.
⑧ 2011/3/12の福島第一原発周辺の空間線量率
福島県が2012年になって公表したによると、事故直後の空間線量率のピークは、大野では0.39ミリシーベルト(10分平均、時間平均などデータのどれを採るかにより異なる)だが、約10km北の双葉町上羽鳥では、3/12の午後に1.59ミリシーベルトを記録している。その北にある新山では同日0.904ミリシーベルト、そして南にある福島第二原発では3/15の未明に0.155ミリシーベルトを記録している。
⑨ この被曝問題に関する日本人のツイート
Dr. Fuku @2011kazu0927氏の12/31のツイート
フクシマでの放射線被曝をアメリカの裁判所に訴えた米兵の一人は大腸からの出血に悩まされ、一人は甲状腺に問題を起こし、一人はガンを発症し、障害を持った子供が誕生した。これらは、放射線被曝による中毒的症候群と考えられている。金目当てじゃない。
Yuri Hiranuma @YuriHiranuma氏の12/27のツイート
「放射能汚染隠蔽に、米海軍兵士計8名と1名の女性の幼い娘は、東電に1千万ドルの補償的損害賠償と3千万ドルの懲罰的損害賠償(詐欺、過失、厳格責任、警告不履行、公的不法妨害、私的不法妨害、設計欠陥)と1億ドルの医療基金を要求。」
⑩ 乗組員はどこで被曝したのか。
米原子力空母ロナルド・レーガンは、当初福島沖にいたらしいが放射性物質を避けて何度か移動している。3/14には福島第一原発から北東160kmの位置にいたとの情報(2011/03/14 20:13 FNN)がある。
赤い線は160km。3/20現在では仙台の北東沖にいるとされており、この図の交点位置よりさらに90kmほど北にいたと見られるが、3/12から3/14ころまでは、福島第一原発の東から北北東の方向にいる時間が長かっただろう。
気流のシミュレーション(以下、による。放射性物質の放出量は常に一定との前提で計算されており、色が同じでも実際の放射性物質濃度は異なることに注意)
どうもずーっとプルームの流れる風下にいたように見える。
⑪ 原告は、「トモダチ作戦 放射能の線量を偽っておびき寄せられ、被曝させられた!」と主張しているようだ。米軍の指揮下で働いていも、米軍は日本側の提供する情報に基づけば健康被害が生じないはずだったと主張。米軍独自のデータ収集ができたのは3/17以降であり、それ以前は日本側の情報に依存するしかなかった、と主張するのだろう。
⑫ ニューヨークタイムズの記事によれば、福島第一原発からのプルームの中にいた時間は1時間だという。3/15には、関東でも濃厚なプルームが襲来し、1時間以上プルームの中にあったところも多い。そういうところでは、「ロナルド・レーガン」の乗組員と同じように被曝して、健康被害が出る人もいるはずということになる。
⑬ この訴訟に東電はどう対応するのか。隠蔽の有無で争ったら隠された真実が出てくるかもしれない、それを嫌うなら和解に持ち込んで巨額の金を払うのか、東電にとって極めて不利な状況が出てきたと見る向きが多い。
(初出 2013/1/1 1/2追記)
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